自分がここにいるということは必ず、両親がいて、さらに祖父母がいることとイコールだ。この本に登場する男性は写真家・森田剛史の祖父にあたる人物だが、わたしたちと同じように、彼にとってもまた、長い間他人だった。
写真集のタイトルである「紀ノ川」は、そんなふたりの故郷を流れる川だ。物心ついてから、目の前の人物が親族であると認識したとして、一体何を話せばよいのだろう。そして彼らは、互いの身近な存在を出し合った。「写真」と「紀ノ川」。
撮影地を指定するのは祖父の方で、一張羅のジャケットを着て、真っすぐに立ちこちらを見ている。
彼が身を置く風景はとても冴えていて、それは限りなく肉眼に近い色で、紙に印刷された。わたしはそのページを、澄んだ空気を吸うような気持ちでめくりながら、9月9日に去った、一人の女性の存在を意識している。
『H21.09.09– 紀ノ川』
森田剛史 写真集
2024年 玄光社