そっと誰かの後姿を眺めたり、人の営みに目を背けたり、目の前にあるナン・ゴールディンの写真集にうろたえています。しかしながら、一度開けばページを閉じることのできない、引力を持つ本です。まるで彼女に、やさしく手のひらで両頬を掴まれ、現実はこうよと囁かれているような気がします。
若くして親元を離れた彼女が、「ファミリー」と呼んだ友人、恋人たちの親密な姿を写した写真たち。自分を囲う状況を刻むように残したセルフポートレート。愛と傷みが癒着した、日々の記録が収められています。
今年の春には、ドキュメンタリー映画『美と殺戮のすべて』が日本で公開されていたようですが、わたしは知らずにすっかり見逃してしまいました。
しまった!
『The Devil's Playground』
Nan Goldin
2003 PHAIDON