5分。
これは私が『バングローバーの旅』を読み終えた時の体感時間である。
実際はたしか、1時間近く経ってたんでびっくりした。
「おっもろ······」と思った。
そういえば昔『ノルウェイの森』を読んだ時もそんな感じだった。
「なんだこれ」と思いつつ読みやすい、読んだことないこんな話。
···と気づくと緑色になっていて、あれ全部読んじゃった。
時計を見てエッと思った。
今日が明日になっていた。
もちろんそれがいいとか悪いとかが言いたいんではなくて、
開くたび眠くなるそれに「ヒーヒー」しながら、ひと月くらいかけてやっと読み終わる名作もある。
そういうのはしみじみする。
あー読んでよかったなあ。諦めなくてよかった。
何度も見た表紙にもなんだか愛着が湧く。
すぐ読んじゃうのとは違ったしみじみ。
朝目が覚めた時、ある曲のフレーズが耳に残ってる時がある。
これなんだっけ、でもここが好きなんだよな、と私。
同じことが小説でもある。
強烈に美しい場面が突然何かの拍子にぽん、と出てくる。
乗らないバスが目の前で丁寧に停まった時、腎臓のかたちをした石の手触りをまた思い出していたり、
夕方駅で別れた時、とぱあず色のレモンががりり、と鳴ったりして。
このひとの言葉はいいな、と思う。
第三十二回芥川賞を取った『プールサイド小景』を初めて読んだ。
それでびっくりした。
やわらかい輪郭が、光を受けて鋭く光る。
晩年に書いたエッセイ『メジロの来る庭』を読んだ時と同じみずみずしさ。
それで、えばってるところがまるでない。
こういうことって可能なんだろうか、と思ったりする。
このブログは、
「スモークブックスで手に取ることができる本でエッセイを書く」
というのをいちおうモットーにしているので、読んだ後でこの本欲しいな···というのが難点だ。
欲しい、でも届けたい。
そんなことって、ちょっと素敵なことだと思う。
古書は一点物だものね。
とりあえず、読み終わってない本がこんなに積んであるのに、新しい本を買うのを、頑張ってやめます。