絵は芸術家としての矜恃を持ち、それでいて子どもみたいに無邪気だ。
『ヴァンス礼拝堂』のあれ!てててててって、どうやったってにこにこしてしまう。ああユカイ。
いのくまさんの言うマチスの「描いて描き死ぬ」。ストイックな彼であって、りんごひとつに気の遠くなるほどデッサンをする。そらで描けるようになるまで描く。苦しい日もあったろうと思う。でも楽しんでいる、というのがいい。
いのくまさん「彼の作品に見る単純化は、つき進めば結果として抽象形態にたどり着く運命にある道である。
しかし、なぜか彼はその道を急ごうとはしないのである」
マチスの絵は日本人に受け入れられやすいという。それは彼の絵が奥行きというリアリズムの効果よりも、対比や横の広がりの効果に重心を置いているからである。
いのくまさん「時代に鋭角な神経の持ち主であるから、決して近代の動きを見逃しはしない。彼の全皮膚の表面までも敏感に現代を感じ取っているに違いない。
〈中略〉
そしてまた『お前のデッサンはうますぎる』とも言われた。この一語は実に私はつらかった」
-マチスと抽象形式
マチス覚書 美術手帖 1950年4月より
マチスは急がなかった。そして止まらなかった。
今月から始まる国立新美術館の展覧会「マティス 自由なフォルム」。
スモークブックスにあるいのくまさんこと猪熊弦一郎、マチスのカタログもぜひ合わせてご覧ください。
YONA Megumi