最近読んだ本の中に、ユジノサハリンスクと豊原が出てきた。
ふたつは同じ場所を指すのだが、時間が違っていた。ひとつは林芙美子のもので、もうひとつは東京するめクラブのものだ。どちらも紀行集で思いがけず出会った。きもちのよい旅だった。
自分は朝鮮人で、ロシア人でもあって、日本人であるというのは一体どういうことか、私にはうまく想像ができない。サハリンはたぶん寒い。つめたくて冬が深い。朝、蛇口をひねると水がちぎれるようにつめたくなった日本の12月。サハリンは、ここに住む私にはうまく掴めない。
写真家・新田樹の撮るその場所は、どういう訳か「そこ」に感じる。遠いサハリン、でもそこにある。「ここ」にはないだって、サハリンはここから遠いでしょう。この遠さ。これは写真家の力量に他ならない。
写真そのものは静かだ。それは憚らず冬の静けさ。雪解けがせせらぎを孕むように、著者の言葉が添えられている。
本書はスモークブックスの店頭で、お手に取ってご覧下さい。
YONA Megumi
Sakhalin 新田樹
2022