「抽象と形態:何処までも顕れないもの」
対象と向き合い、そのものをあらわそうとする試み。
DIC川村記念美術館で行われている企画展「抽象と形態:何処までも顕れないもの」では、
現代の7人の作家を中心に
そのものを表現しきろうとする抽象作品を
その表現形式に着目し、比較させながら展示していた。
五木田智央の作品は、白と黒とであらわされた絵画だ。
閑散とした風景に人型が浮かぶ。
特定の時間や場所を超えて、身体のなかに蓄積したいくつもの心象を
揺さぶり起こすようだ。
会場では、五木田の色味が、
パブロ・ピカソ≪シルヴェット≫の色味と比較され展示されていた。
アンダース・エドストローム≪無題≫は、
どこまでもたゆたう水面と対岸の風景を撮った写真だ。
ひとつづきの映像の一部を切り取ったみたいに、どこか焦点が定まらない。
しかし、写っているなにかではなく
そこに浸されている空気や、かたちや、心や、
そういったすべてを、しんとみつめかえしてくる。
画面にあらわれたものを超えて、深遠な領域を呼び起こす世界観は
ヴォルスの作品≪無題≫からも感じられるようだ。
エルンスト・H. ゴンブリッチは、その著作『美術の物語』のなかで
モダンアートの試みを「実験」と呼んでいる。※1
目で見たこと、心が感じることを
思い込みや先入観なくとらえ、新たな表現を発見する「実験」。
ひとつひとつの表現の発見は、作家固有のものの見方から生まれたものだが、
それらが文化や時代を超えて、共有されるとき、
ものそのものの本質を、そして人間の考え方や在り方を浮かび上がらせる鏡になる。
4月15日(日)まで。
参考
※ウェブページのリンクは2012年4月11日現在
○DIC川村記念美術館
http://kawamura-museum.dic.co.jp/exhibition/index.html#admission
プレスリリース
http://kawamura-museum.dic.co.jp/release/pdf/111206.pdf
※1については次の本から引用しました。
○エルンスト・H. ゴンブリッチ『美術の物語』2011、427ページ
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